MarieWorks

あて書きと二次創作

大学生の頃、演劇研究会というサークルに所属していた私は、学内や学外で上演するお芝居の脚本を書いたり、演出を手がけたりするのに夢中でした。

劇作というのは、物書きにとって驚くほど楽しい経験です。

自分が頭の中で思い描いた人物を目の前の役者さんが演じ、私の書いた台詞を自らの言葉のように口にする。私の頭の中にだけあった場面が、突然、リアルな肉体や声をともなって現実の空間で繰り広げられるのです。

繰り返すけど、それは本当にびっくりするほど面白くて、心躍る体験でした。

それで私は、夢中になって戯曲を書きました。
「戯曲」なんて言ったけど、文学としての戯曲を書くつもりも、岸田戯曲賞を狙ってやろうなんて野心もなく、ただただ、今このメンツでできる最高に面白くて自分好みな芝居を書きたいという気持ちだけでした。

劇研は文化系サークルの中ではどちらかというと体育会系寄りのサークルではありましたが(身体訓練ハードだしね)、そうは言っても大学生のサークル活動なので、基本的にはみんな、そのときにやりたいことをやるノリでした。公演のたびに、参加する人数や顔ぶれは変化します。前回は役者として舞台に立ったけど次回は不参加、もしくは裏方で、という人もその逆もいます。もちろん、舞台に立つ機会があればすべて立ちたい!という役者バカみたいな人もいますが。

そんな感じだったので、毎回、集まった役者さんたちの顔ぶれを見て、そのメンバーでできるおもしろいお芝居を作ろうと思っていつも書いていました。いわゆる「あて書き」です。あの役者さんにはこんな役、この役者さんにはこれ、それでこんな場面を演じるところを見たい!という気持ちに突き動かされて。

だって私は知ってる。役を演じる彼女が彼が、どんなに素敵なのか、魅力的な役者なのか。どんな役が台詞がきっとハマるのか。それをたくさん見たい、見せたい。まだ見たことのない役やシーンを演じる彼らを。だから上演後のアンケートに、「〇〇さん今まで見たことないぐらいかっこよかったです!」みたいな感想をもらうと、そうでしょうそうでしょう、だって見たこともないような彼や彼女を見せたくて書いたんですから、と自分のことのようにうれしかったのを憶えています。

「これはあなたのために書いた役だから、あなたが名前を付けてあげてください」だなんて役者さんたちに無茶ぶりをしたこともありました。自分では絶対に思いつかなかった、だけどそれぞれの役にこれ以上ぴったりな名前はない、という役名をみんな考えてくれて感動したのをおぼえています。彼ら彼女らが思う自分の持ち味とか表現したいものと、私の表現したいものが通じ合うのを感じました。劇作というのは一事が万事そんな感じ。作・演出に私の名前が書いてあっても、私がひとりで作るところなんてわずかでした。

演劇は大学を卒業してからも数年は続けていたけど、だんだん一緒にやってくれる人も少なくなってきて、なんとなくフェードアウトして。以来、物語を書くなんて機会もすっかりなくなって。

それからずいぶんと長い時を経て私は最近、何を思ったか二次創作になぞ手を染め、今回、とても久しぶりに物語というものを書こうと向き合いました。

書きながら私は、「ああ、これは、あて書きで劇を書いていたときの感覚ととても似ている、同じだ」と思い出していました。あの役者さんに、こんな役を、こんな場面を、こんな台詞を演じてもらいたい、という気持ちに突き動かされて物語を書いていたときのことを。

同じだ。このキャラクターがこんな台詞を言うのを、こんなふるまいをするのを見たい、という気持ちを原動力に書き上げるのだから。そうか、あて書きというのはたぶん、知人(役者)をベースにした現実の二次創作のようなものだったのだ、なんて今になって思いました。

ところで、劇をやるためにはまず台本を書き上げて、稽古の初日にそれを役者さんたちに渡さなければなりません。だからなんにせよひとまず最後まで書き上げる。それを何度も経験していたから、なんというか、自分の中でまだ全然完成していなくても、八方破れでも、最後まで書き上げて良いのだ、というか、書き上げなければ始まらないのだ、という意識が根付いていたのかな、という気がします。

もうほんと不備だらけでもとりあえず最後まで書ききれば、あとは演出するほうの私と役者さんたちが、きっとあるべき最終形に仕上げてくれるはず、という謎の信頼感のようなもの。むしろ完璧なものより穴だらけのほうが、魅力的な劇になる、ぐらいに当時は思っていた気もします。そんな気持ちで書き上げる経験を何度もしていたから、今回ひさしぶりに、なんか書いてみようかなと思ったときも「別に八方破れでも書き上げりゃこっちのもんだ」みたいなひらきなおった気持ちで書ききりました。


かつて戯曲は何本も書いたけど、小説というものを書き上げた経験はごくわずかです。劇研のとき書きたい有志で定期的に発刊していた文芸誌に載せる短編を書いたことが少しあるぐらい。二次創作となると、さらに昔、高校生のころノートに思い付きを書いていたようなものぐらいで、それらをちゃんと書き上げたことなどなかったと思います。

だから小説の書き方もよく知らないし(中島梓の小説道場はむかし愛読してましたけどね!)、「うーん、これは小説なのだろうか? 規格外れすぎない?」と思いながら書きました。だいたい台詞とト書きのようなものです。もともと戯曲をよく書いていたので、発音したときの響きやリズム、間、みたいなものには少しばかりこだわった書き方かもしれません。

大好きなキャラに演じてもらいたい場面を、台詞を書きました。
二次創作というのはたぶん、好きなキャラという役者さんに自らの役を演じてもらう一幕のお芝居のようなものなのだな、と今は感じています。
だから、その中で何が起ころうとも、それはお芝居。幕が下りれば本物の彼らに影響が及ぶことはありません。そんな気持ちで、楽しんでいただけたらうれしいなと思います。

そんなわけで宣伝でございます。
2024年7月20日22:00~21日22:00にピクリエにて開催されるファイアーエムブレムエンゲージ邪竜の章Webオンリーイベント「アナザーエンゲージ~邪竜の宴~」にて読み物中心の邪スタルーク本の頒布と、本に収録の小説から2編をWeb展示いたします。ご興味を持っていただけましたら、お気軽に遊びに来てくださればうれしいです。

そうそう、演劇をやっていた当時、自分で作・演出を手掛けた劇を上演するとき、お客さんに入場時に渡すアンケートやチラシとともに「ごあいさつ」文を印刷したものをお渡しするのがお決まりでした(これは明確に、第三舞台の鴻上さんの影響というかまねっこでした)。

これから私たちの劇を観てくださるお客さんに向けて、幕が上がるのを待つ間のひとときに読んでもらいたいメッセージを書くのです。今回のこのエントリーは、そんな「ごあいさつ」を書く気分で書きました。開演まで、しばらくお待ちくださいませ。お楽しみいただければ幸いです。